皆様アンニョン。火気厳禁です。
先日こんなツイートをしたところ、フォロワー200人程度の僕にしては中々の反応を頂きました。
もしかしてこういうスラングの解説って需要あるんですか?(『ICY』に関しては過去キャスで喋った) pic.twitter.com/taBXHediDn
— 火気厳禁 / kaki genkin (@kaki_genkin) 2021年5月26日
ということでハングルは読めないがストリートの言葉はちったあ分かる火気厳禁が、K-POP楽曲に登場するHIPHOPのスラングを解説していきます。
※スラングの解説なので若干乱暴な言葉が出てきます、読む際はその点ご留意くださいませ……
"ICY"
大人気若手グループ・itzyの『ICY』。アイス(ice)が形容詞になった形なので一見「氷のように冷たい」というような意味に取れますが、実はこれHIPHOPでよく使われるスラングなのです。
「ice」そのものの意味は「氷」。転じてジュエリーの輝きを氷に例えた言い回しです。ラッパーが「I got ice」と言うと「ダイヤを手に入れたぜ」。それが形容詞「icy」になると「ダイヤのようにキラキラしてる」、もっと言うと「マジでイケてる」みたいなニュアンスで使われます。派生して腕時計にスワロフスキー敷き詰めてギラギラにすることを「Iced out」なんて言ったりしますね。
つまり『ICY』の歌詞「I see that I'm icy」は「私は私が氷のように冷たいことが分かっている」、ではなく「私は自分がイケてるって知ってる」となる訳です(超絶ざっくりですが)。そもそも「クール(Cool)」という言い回しがあるように、「冷たい」という感覚が「カッコいい」に繋がっていると考えると理解しやすいかもしれません。逆に「ホット(Hot)」もカッコよさの表現として使われますね。
チョンハの『Bicycle』ラップパートにも「I got ice decorating my neck」という一節がありますが、これは「首に飾り切りの氷をゲット」ではなく「ダイヤで首元を飾る」という意味ですね。姐さんカッケェっす……。
まああとアイスつったら薬物よね。
"Drip"
最近ではWJSN『UNNATURAL』のエクシのラップパートで「dripping gold」という一節があったり、惜しまれながら解散してしまったHINAPIAには『DRIP』というそのものズバリな楽曲があったりするこの「Drip」というフレーズ。
こちらも前述の「Icy(ice)」と同じく、ダイヤモンドやアクセサリーなどが光を反射する様子をdrip(水滴)に例えて言った表現。なので『UNNATURAL』の当該パートを前後も含めて訳すと「油断したらダメ バカみたいに着飾って煌めくゴールド 何をしても no way」(意訳)。この曲のテーマは「好意を寄せる相手といると不自然に振る舞ってしまうことへの戸惑い・苛立ち」な訳ですが、そう考えるとエクシ本人がこのリリック書いてるのヤバいな……。
用例としましてはMigosとヨチンの大ファンでお馴染みリルウジの一世を風靡した楽曲『Bad and Boujee』に「Raindrop (Drip), drop-top (Drop-top)」という一節があります。これは「drop-top(=オープンカー)」の天井に「Raindrop(=雨粒)」が降ってきた、という訳が適当かと思われますが、「Raindrop(Drip)」なので「ダイヤモンドと高級車、 俺は稼いでるぜ」という意味にも取れます。この意味合いが曖昧な感じが面白いっすね。
日本だとちょっと前にJP THE WAVYがタイのラッパー・TWOPEEとこれまた『Drip』という曲を出しているのですが、hook(サビ)の「首元めちゃ濡れてる」という一節は「ライブ中汗で首元が濡れている」のと「濡れてる」→「水」→「drippinしてる」で「首に巻いたダイヤのチェーンが輝く」という意味がかかっていて秀逸な表現になっています(本人がここまで考えてるかは知らない)。
"Don't Give A What"
再びitzyからこのフレーズ。ヘッズ(HIPHOPファン)がこのタイトルを見るとちょっとびっくりする訳ですが、何故なら普通は「I don't give a f*ck(sh*t,damm)」という慣用句だから。要はストリートでの言い回しよりはソフトになってる訳です。意味は「そんなもん気にしねえよ!」といったところ。
スラングというよりは慣用句として広く使われているので映画やドラマで聴いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
"Savage"
BLACKPINKがよく使うフレーズ「Savage」。多分男性グループの曲なんかにも出てくるんじゃないでしょうか。
元は「野生の獣」「野蛮人」という意味ですが、その荒々しさ・飢えた凶暴なイメージから、リリックで自らのスタイルをSavageに例える表現がよく見られます。っていうか21 Savageてめっちゃ有名なラッパーもいるくらいです。トゥエニワントゥエニワン……
ここ最近で印象的な使われ方はやはりMegan Thee Stallionの『Savage Remix (feat. Beyoncé)』ではないでしょうか。
新進気鋭の女性ラッパー・Megan Thee Stallionと大御所のBeyoncéがコラボ。「私は気まぐれで攻撃的なサヴェージ」というリリックと、静謐で綺麗なコーラスも入っていながらガッツリ盛り上がるビートの組み合わせはまさにSavage。そんな曲なので今年のグラミーでは最優秀ラップ楽曲賞を受賞しています。マジ良い曲。
ちなみにですがBLACKPINK『Ice Cream』のジェニのパートで「Even in the sun, you know I keep it icy」とあったりリサのラップではフェラーリのことを「La Ferra'」と言ってたりと、音だけじゃなく歌詞も結構HIPHOPへの目配せがあります。歌詞に高級車の名前出すアイドル見たことある???
"Boss Bitch"
こちらもBLACKPINKで『How You Like That』の中の一節。
明らかにDoja Catの同名曲からのサンプリングだと思います(笑)。
Doja Catはこの曲の中で「私はグロスのように輝くボスでビッチ」と歌っていて、この無敵感がマジSavageだということで「Boss Bitch」のフレーズが流行りました。
ジェニのソロ曲『SOLO』のサビのフレーズ「빛이 나는 솔로(びち なぬん そろ・光り輝く私はソロ)」では「빛나다」(びっなだ・光り輝く)の音を敢えてBitchに聞こえるように入れているのではないかという指摘があります。
BLACKPINKがHIPHOP色の強いグループであること、国際的に人気があることを考えるとBitchくらい言っちゃうか、と思うわけですが、今ポップミュージックの範囲で「Bitch」つったらまあ「イケてるギャル」くらいのニュアンスだったりしますしYGとしても全然問題ないという判断なのでしょう(勿論誰がどんな文脈で言うかによりますが)。
上記の『Savage Remix』なんかもそうですが、女性同士の連帯の場で「Bitch」という言葉が使われてる場合も増えてきています。『How You Like That』の中の「Bring out, your Boss Bitch!(貴女の中のBoss Bitchを解放して!)」も一種のシスターフッドの発露(?)なのではないでしょうか。
あとちなみにですがBLACKPINKのオンラインライブ「THE LIVE」ではリサがこのDoja Catの『Say So』をカバーしてました。あれめっちゃ良かった……。
"Racks on Racks"
またまたitzyから『KIDDING ME』のリュジンパート「Racks on Racks」。「最近HIPHOPでよく聞くフレーズだなー」と曲聴いた当初は思ってたのですが、調べてみると「Racks」は札束を意味するスラング。なので「Racks on Racks」で「札束の上に札束」という意味になります。
上記の『Bad and Boujee』でもこのフレーズが使われているので曲が出た2016年の時点で界隈では使われていたのだと思うのですが、Lil pump「Racks on Racks」でミームとして広まったのかなと思われます。
しかし『KIDDING ME』での用法は札束そのものを意味する訳ではなく、前後の歌詞の文脈を踏まえると「私への気持ちを曖昧にする君への怒りが積み重なる(=Racks on Racks)」という文脈で使われています。
この曲にも「Savage」出てきますね。今回itzyとBLACKPINKを取り上げる割合が大きくなってしまいましたが、この2組はHIPHOP色のあるコンセプト/欧米圏での展開、が活動の主軸に据えられているため仕方ないかなと。今回挙げた曲以外にHIPHOPスラングが使われているK-POP楽曲ご存知の方、是非火気厳禁までご連絡ください。男性グループ全然詳しくないのでその辺への言及が出来てないんですよね……
所感
やはり欧米のメインストリームはここ数十年HIPHOPが強いこともあり、K-POPはこの"ガラの悪い"音楽からの影響も避けられない訳ですが、ガラが悪いまま飲み込んで体現してるBLACKPINKもいれば翻案してちょっとソフトにしつつもトレンドには乗るitzyもいるというこの状況自体が興味深くないですか?
しかし今回紹介したようなスラングはブラックスキンの方々のコミュニティで生まれたものもあり、「文化の盗用」という指摘がなされてもおかしくありません(自分が知らないだけでもう言われてるかも、そもそもアジア人がHIPHOPをやること自体こういった問題を孕んでいる)。これはグローバルな展開をする上で避けられない業界の課題点と言えるでしょう。
もっと詳しく知りたい方は下記の参考資料に挙げた記事などをチェックしたり、GeniusというアメリカのHIPHOP系メディアでK-POPの歌詞を解説している記事が載ってたりするので英語出来る方はそちらも見てみてください。あと火気厳禁のTwitterでは時たまこういう話してるので是非フォローしてみてください。
歌詞の語句に注目したので本編では触れませんでしたがSTAYC『ASAP』、Weekly『After School』などHIPHOPの持つ"ガラの悪さ"を換骨奪胎してしまっている楽曲なんかも出てきています。今、益々面白くなっているK-POPとHIPHOPの関係。是非リリックにも注目して楽曲を聴いてみてください!! それでは!!
(追記)
この記事の第2弾が出ました! SMエンタを中心にスラングを紹介してますので興味のある方は是非。
参考資料
K-POPとUSメインストリームのポップス(HIPHOP含む)の関係を書いた(書き起こした)記事や現役バリバリの在米トラックメイカーによるHIPHOPスラング解説動画(日本語)、Doja CatとSaweetieのシスターフッドを感じられる楽曲『Best Friend』など載せときます。更に色々知りたい方は是非!
- 【解説・和訳】Bad And Boujee / Migos(ミーゴス) | 洋楽は解説聞けば好きになる
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Saweetie - Best Friend (feat. Doja Cat) [Official Music Video] - YouTube