火気厳禁のハングル畑でつかまえて

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半地下のオタクがK-POPを語るブログ

20220611/解説・Kポに潜むHIPHOPのスラング Pt.2

皆様アンニョン。火気厳禁です。

下の記事を書いてそろそろ1年が経ちまして、以下記事で紹介した以外でもHIPHOPカルチャー由来のスラングを歌詞に使っているK-POP楽曲が増えてきたのでまとめてご紹介します。

 

kaki-genkin.hatenablog.com

 

ではまず、前回記事で紹介した言葉の使用例をもう一度かいつまんで見てみましょう。

 

前回のおさらい

前回の記事を公開したのが2021年の5月末でした。そこから約4ヶ月後、HIPHOP経由でよく使われるようになったスラングを題名にした楽曲がリリースされ大ヒットしましたね。そう、aespaの「Savage」です。元々は「獣」「野蛮人」みたいな意味合いの言葉ですが、現在は「オラオラでイケててヤバい」みたいなニュアンスで使われています。「今捕まえなきゃ私はもっと"Savage"」という印象的なフレーズがサビにありますが、噛み砕いて訳すと「もっと暴れちゃうよ」みたいな感じでしょうか。

 

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NCT127「Regular」ではicedripというフレーズが用いられています。これはジュエリーが輝く様子を水(氷)が光を反射する様子に例えた表現です。「Splash!」という派生フレーズまで入ってますね。最近リリースされたNCT Dream「Saturday drip」もこの言葉が印象的に使われてます。ってか「Saturday drip」は「another one」とか「I love it」とか「もしかしてアレをサンプリングしてる……?」みたいなフレーズも入っててヤバい。タイトルにかけてポロックネームドロップ(リスペクトを込めて人物の名前をリリックに入れ込むこと)までしてるし。

 

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LE SSERAFIM「FEARLESS」にはbitchというフレーズが出てきますね。「I' m fearless a new bitch new crazy(私は恐れ知らずの超新しい存在)」と高らかに宣言しています。

 

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てな感じで、HIPHOP/ストリート由来のスラングK-POPでも一般的に使われるようになってきています。

それでは、他の歌詞に登場するスラングも見ていきましょう。

 

"skrrr!!"

宇宙少女のエクシが作詞に参加しているというのでCRAVITY「My Turn」を聴いたらskrrskrr言ってて驚きました。

 

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VIVIZ「Tweet Tweet」ではほぼ意味の無い合いの手みたいな形でこのフレーズが使われています。これもこれでヤバい。

 

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で、CRAVITYの曲を聴けば分かる通り「skrrr」は車のタイヤがアスファルトを噛む音を表した擬音語です。4年前リリースのMigos, Nicki Minaj, Cardi B「Motorsport」でもう既にこのフレーズが使われていて、2022年現在ではK-POPにおいてもかなり広まっていると言えるのではないでしょうか。

 

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似た表現に「Vroom Vroom」がありますね。こちらはエンジンをフカす音の擬音語で、aespa「ICONIC」、NCT 127「Bring The Noise」などに登場します。

 

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"Hustler"

TWICE「ICON」のラップパートには「Gimme all my props 'cause, baby, I'm a hustler」というラインがあります。

 

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ヘッズならお馴染みの「Hustler(ハスラー)」というフレーズですが、これは「薬物・大麻の売人」という意味です。なので、「えっ……アイドルがハスラーとか言っちゃって大丈夫???」と思う訳ですが、この場合は「ドラッグを密売する」という意味の「Hustling(ハスリン)」が派生して「大金を稼ぐ」という意味でも用いられるところから読むのが妥当でしょう。また、前段の「props」もHIPHOPではよく使われるフレーズです。これは「良い評価・尊敬」という意味合いの言葉なので、このラインを前後含めて訳すと「もっと尊敬しなよ、私は稼ぎまくってるんだから ほらみんなが私のことを好きって言ってる」みたいな感じですかね。スラングの使用だけでなく、この曲自体が全編英語詞であることからもここ最近のTWICE(というかJYPガールズグループの)欧米市場戦略が見えてきます。

 

"Snitch"

TWICEに続きバリバリのギャングスタ系フレーズだとウンビの「Glitch」のサビに「snitch」というフレーズが出てきてびっくりしましたね。これは「情報を漏らす・チクる」みたいな意味で頻出のフレーズです。ラッパーが捕まった時仲間の情報をぺらぺら喋る奴は「スニッチ野郎」として大変な目に合う訳ですが、この曲ではタイトルの「Glitch」と韻を踏んでいてバックトラックと合わせて非常に良いグルーヴを作ってます。

 

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使用例としてMonyHorseの「C.R.E.A.M」を挙げます。この曲のタイトルは甘いクリームを表している訳ではなく、Wu-Tang Clanの楽曲が元ネタの「Cash Rules Everything Around Me」を踏まえたものになっています。これはざっくり言えば「お金がモノを言う」という意味で、この曲もお金のことおよびハスリンすることがテーマになっています。誰でもビジネスでトラブル起こされたくないですからね……。

 

Snitchするならオレに絡むなBitch

 

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"Poser"

恋心が激しく駆り立てられる様子を描いたSTAYC「RUN2U」2番頭のラップパートに「알잖아 I'm not a poser」というフレーズがあります。

 

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ここだけ訳すと「知ってるでしょ 私がポーザーじゃないってこと」となりますが、この「poser(ポーザー)」は「ダサい奴」みたいな意味のスケーター達のスラングです。Summit所属のラッパー・OMSBの「Naruhodo」にはこんな一節があります。

 

飽き性なくせ他力本願

ポーザーほどほざくニューなスタンダード

 

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OMSBのこの曲はコロナ禍で溜まった鬱憤をそのまま吐き出すようなリリックを彼独特の声とフロウで叩きつけてくる訳ですが、そんな強めの言葉が「RUN2U」の中でも使われている訳でございます。この曲のMVではこのパートを担当するジェイがグラフィティをボムるシーンもあり、STAYCの持つ"可愛さを阻害しない程度のストリート感"を上手く演出している歌詞&映像&スタイリングだと思います。素晴らしい。

 

"Straight up!"

ドーム公演の予習としてNCT 127「Focus」を聴いていたら「Straight up!」と聴こえてきてめちゃくちゃ驚きました。

 

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何故か? それはこのフレーズが、ラッパーTravis Scottの決まり文句だからです。Travis Scottはアトランタ出身のラッパー。昨年彼主催のフェスで痛ましい事件が起きてからはしばらく表舞台から姿を消していましたが、今年のBillboard Music Awardsで久々にパフォーマンスを披露したりNikeとのコラボを再開したりとまた注目が集まっています。

 

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HYO「Dessert」にも彼の決まり文句「It's Lit!!!」というフレーズが使われています。こちらは客演ラッパーLoopyのパートでもあるので何となく影響関係が分かるような気がします。そしてどちらの曲もSMエンタ所属アーティストのもの。

 

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「O.O」分析でビートスイッチの例に挙げた「SICKO MODE」も彼の曲です。

 

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と、いうことで、韓国の巨大芸能事務所であるSM、そしてJYPにも影響を与えているTravis Scottヤバいですね。あとRed VelvetジョイやOH MY GIRLジホが彼とNikeのコラボスニーカー履いてたりもします。提供されたにしろ自分で購入したにしろすっげえな……(定価は一般的な価格ですが人気過ぎて6桁円台で取引されています)。

 

 

"Bread"

BLACKPINKリサのソロシングル収録「Money」のリリックには「All this bread so yummy, yeah」という一節があります。そのまま訳すと「このパン美味い」とよく分からない訳になってしまうことから分かる通り、この「bread」というフレーズは「お金」を意味するスラングです。日本語でも「飯の種」「食っていく(=生計を立てる)」といった言い回しがありますが、それと同じような感覚が由来なのでしょう。「金」を意味するスラングはクリームとかブレッドとかなんか美味そうな言葉ばっかですね。

 

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また、この曲の終盤には「My money moves, Money I choose, CELINE My Shoes, Walkin' on you」というリリックがあります。ここで出てくる「CELINE My Shoes」は彼女が高級ブランド・CELINE(セリーヌ)のアンバサダーを務めているところから来るラインです。

ブランド名をリリックの中に入れ込んで自らのリッチさをアピールするのはHIPHOPでは定番の手法。このように自らの経済力やラップスキルなどを誇示することをセルフボースティングと言いますが、自分で書いた訳でもないこの歌詞にちゃんと説得力を持たせられるのがリサのヤバいところですね。

さて、French Montana 「No Stylist」には、hook(サビ)にはこんなリリックがあります。

 

Louboutin, Jimmy Choo, that’s on you

 

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引用したラインには「ルブタン、ジミーチュウ、お前が着ろよ」というような訳を当てられます。このルブタンとジミーチュウは両方ともウィメンズの靴で有名なブランドですので、つまり金を持ってる男性(ラッパー)が女性に靴をプレゼントする、という構図が描かれています。

ここでリサ「Money」のリリックをもう一度思い返してみましょう。「CELINE My Shoes,  Walkin' on you」、ここでハイブランドの靴を媒介としてリサとフレンチ・モンタナが接続され、女性に靴を買い与える"旧来のラッパーっぽさ"と、モデル業も歌手もこなす"自立した女性像"の対比が見えてきます。

 

"Classy"

オーディション番組「放課後のときめき」から誕生したグループ、CLASS:y。教室(class)と上品さ(classy)をかけ合わせた秀逸なグループ名ですが、この「classy」も最近HIPHOPのリリックでよく使われる言葉です。

 

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K-POPで使われている例をもう1つ。Red Velvetの「Beg For Me」の後半に入るラップパートでは、ウェンディが「I'm, I'm, I'm bossing it real nasty But still keeping it classy」とかなりドープなデリバリを披露しています。

 

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お察しのよい方はもうお気づきかと思われますが、この「Beg For Me」のリリックは前回の解説記事で紹介したMegan Thee Stallion 「Savage」のhookのリリックから影響を受けているのだと思います(使われているフレーズが同じ)。女性ラッパーが男性と同様に評価されるようになってきた昨今、ダーティさだけでなく"上品さ"もイケてる価値観の1つになっているというのが面白いですね。ちなみにRed Velvetには「Saasy Me」という曲もあります。

 

I'm a savage (Yeah)
Classy, bougie, ratchet (Yeah)
Sassy, moody, nasty (Hey, hey, yeah)

 

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そして「Beg For Me」というタイトル自体がCharli XCX 「Beg For You」から来てる、ということは言うまでもないでしょう(曲調ぜんぜん違うけど)。この「Beg For You」のRemixにK-POP畑からセブチのバーノンが参加しているというのが面白いですね。

 

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タイトル被り、でいうとKAI「Peaches」もJutin Bieberの同名曲があり、両者ともに女性を桃に例えた歌詞になっています。そしてRed Velvet、KAIはやはりSMエンタ所属……!

 

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所感

ということで、「解説・Kポに潜むHIPHOPスラング Pt.2」でした。第1弾がBLACKPINKとitzyばっかりだったことを思い返すと今回はSMエンタばっかり紹介したな、と思いますが、SMエンタの楽曲こそ欧米アーティストからの影響受けまくってますからね(このブログのDsign Music特集回参照)。NCT 127は上記の「Regular」の中で「カニエみたくWe Touch The Sky」とか言ってるし。「俺らは高く昇り続ける」ってことですね。

 

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で、この「K-POPにおけるHIPHOPスラングの使用」という現象は、ある程度リスナーが意味を理解出来る前提でそうした言葉を入れて作詞されているのかなと。つまり、大前提として韓国国内においてHIPHOP/欧米ポップスがよく聴かれているという状況も反映しているんじゃないかな~と思いました。

もっと詳しく知りたい方は下記の参考資料に挙げた記事などをチェックしたり、GeniusというアメリカのHIPHOP系メディアでK-POPの歌詞を解説している記事が載ってたりするので英語出来る方はそちらも見てみてください。あと火気厳禁のTwitterでは時たまこういう話してるので是非フォローしてみてください。

それでは次回もお楽しみに~~~~~~~~~~。

 

参考資料

 

 

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