K-POPシーンにおいて数々の名曲を生み出してきたブラック・アイド・ピルスンが全面プロデュースする6人組ガールズグループ・STAYC(ステイシー)。キャリア3年目を迎えた今年(2023年)にはMelon Music Awardで「今年のミュージックビデオ賞」を受賞し、更にその人気と評価を確固たるものにしつつある。そんな彼女たちが12月6日に日本活動の第2弾シングルとしてリリースしたのが、今回取り上げる「LIT」だ。
WHAT IS LIT?
度々K-POPにおけるHIPHOPの影響/ストリートスラングの使用について触れてきた当ブログであるが、「Lit」という単語についても以下記事の「Straight up!」の説明箇所で既に軽く触れている。
「Lit」という言葉は「着火する」という意味から転じて「アツい、ヤバい、イケてる、最高」といった意味でも用いられる。ティザーで楽曲タイトルを見た時正直「ちょっと古くね?」という感想を抱いたのだが、urban dictionaryを引いてみると2014年時点でもう既に現在のような意味で使われていたらしい。もはやミームとしての旬は過ぎ、普通に使われる言葉になっているように思う(筆者は英語ネイティブでもなんでもないのでもしかしたらもう全然使われてないのかもしれないし、現役バリバリでLITなのかもしれない)。
前掲のブログ記事でも紹介しているが、Travis Scottのキメフレーズ「It’s Lit!!」からも分かるように、この言葉はHIPHOPのリリックの中でも度々使われている。
揺らすケツがLit! お前よりもビッとして生きてるBadなBitch
(OVER KILL (FUJI TRILL & KNUX), Jin Dogg, Henny K & ralph - Never Get It)
LIT oh
I’m always thinking dirty oh freakin’
LIT oh
I know you want this body
(Ash-B - LIT (feat. BOBBY))
「LIT」はどこがLITなのか?
さて、タイトルに関する蘊蓄はこの辺にして楽曲そのものについても見ていこう。
冒頭からボルチモアクラブの5つ打ちが鳴り、シグネチャーである「S!T!A!Y!C! Go!!」のフレーズに耳を掴まれる。音楽ゲームやkawaii系楽曲の雰囲気漂うサウンドと伸びやかな歌唱、 中毒性のあるサビのリフレインまでとにかくキュートで痛快だ。
日本語と英語と韓国語を折衷した歌詞の構成も興味深い。単なる日本語オリジナル楽曲ではなく、日本と韓国、そして広く世界を見据えたプロダクションである、ということなのだろうか。
「最初に見た時難しくてびっくりした、踊れないかと思った」とメンバーが話すダンスもこの曲の大きな見所だ。K-POPでは上半身の動きが中心となった振り付けがなされることが多いが、「LIT」ではビートに合わせた足技中心の弾むような振り付けを全面的に採用し、かつ群舞としての見応えもあるコレオに仕上がっている。筆者はこの曲の初生披露を目撃したのだが、彼女たちの持ち味である親しみやすく可愛い楽曲と、グルーヴィーに躍動する身体が生み出すクールネスの融合には目を瞠るものがあった。
このダンスムーブはBlick/Phillyと呼ばれるスタイルで、その名の通りアメリカのフィラデルフィアが発祥。ジャージードリル流行のきっかけとなったLil Uzi Vert「Just Wanna Rock」で彼が踊ったのをきっかけに火が付き、TikTokなどSNS上でバズったという経緯がある。ボルチモアクラブ/ジャージードリルの流行については以下記事に詳しく書いたので、興味のある方はこちらを参照されたい。
低音強めでHIPHOP志向なビートだが、可愛らしいメロディや自然体なボーカルが彼女たちらしい親密さを演出し、なんとなくPinkPantheressの楽曲にも似た印象を受ける。
「Teddy Bear」以降特に自然体であることやセルフコンフィデンスについて歌ってきた彼女たちであるが、「LIT」でもそのメッセージは変わらない。「時間は待ってくれない」から「振り返らず歩いて行こう」「君と共に 望む場所に 走り出してく」その姿勢は、リスナーの大半を構成するティーンは勿論、あらゆる層のファンをエンパワメントする。この”リスナーとの距離の近さ”は、STAYCにしかない魅力だ。
Y2Kストリートスタイルを軸としながら、グレン・マーティンスのDIESELを思わせるくすんだカラーパレット、デニムのバギーパンツを採用したスタイリングも素晴らしい。楽曲と同様、取っつきやすいポップな印象と硬派なストリートの雰囲気を両立させている。
🔥🔥🔥
STAYC「LIT」について、楽曲のサウンド、ダンス、歌詞、スタイリングの面から見てきた。この曲は、現行のトレンドであるボルチモアクラブ/ジャージードリルのリズム感とファンシーなメロディ、かつ前向きでポジティブなメッセージを融合させた「LIT」は、今までの彼女たちのパブリックイメージを裏切らずそれでいて新奇性も獲得している。
楽曲のクレジットを確認すると、作曲にはブラック・アイド・ピルスンのラド(Rado)、日本人ソングライターのESME MORI、STAYCやチョンハへの提供を行うPrime Time、そして編曲はBXN(BEOMxNANG)が手掛けている。ブラック・アイド・ピルスンはキャリア初期から大衆人気の出やすいキャッチーな楽曲を得意としてきたが、今作でもそのセンスが炸裂。編曲のBXNは「BUTTERFLY」「247」など過去にもSTAYCのHIPHOP~R&B楽曲の制作にも参加しており、今作においてもストリート感覚の補強を担ったのではないかと推測出来る。
STAYCとHIPHOPの組み合わせと言えば、キャリア初期の名曲「ASAP」である。この曲もドープな低音とTrapのハイハットに可愛らしいトイピアノの音色や中毒性の高いメロディ、キャッチーなダンスがバイラルヒットを巻き起こした。
「ASAP」で見せたTrapサウンドと可愛らしさの融合を2023年のトレンドに合わせアップデートした快作、リスナーと彼女たちの未来を照らす灯台の炎ーーーそれが「LIT」なのだ。
参考資料
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