火気厳禁のハングル畑でつかまえて

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半地下のオタクがK-POPを語るブログ

20231118/2色の、いや総天然色の――Red Velvet ‘Chill Kill’ アルバムレビュー

約6年の長い長い静寂を打ち破る稲妻のような衝撃、Chill Kill = Red Velvetのお出ましだ。緊迫感溢れるシンセのリフレインとグラインドするベース、そして5人のメンバーに導かれ、我々は異世界へと連れて行かれる。困惑していると、彼女たちは笑って「明日のことは考えないで 幸せな結末で待ってる」と言うのだった――――。

 

近年更にそのファンダムを拡大するK-POPシーンにおいて、その洗練された楽曲やヴィジュアルイメージによってRed Velvetは唯一無二の存在感を発揮している。そんなRed Velvetの約6年ぶりとなるフルアルバム『Chill Kill』は、彼女たちのグループ名であり、かつ根幹となるコンセプトであるRedとVelvetの融合を更にモダンにアップデートした快作だ。

 

リード曲「Chill Kill」はドープなDrillのベースがおどろおどろしさを演出し、徐々に高まるリズム、そしてパッと明るいフルートの音色……と目まぐるしく(耳まぐるしく?)その展開を変化させる。永遠に続く日常をぶっ壊しに来たChill Killには、「Feel My Rhythm」から顕著になってきた楽曲におけるmixtureな音楽感覚が活かされている。私はこの曲を聴いて、「狂気の安らかさ、正気の狂おしさ」というN/Kのリリックを思い出さずにはいられなかった。

ミュージックビデオも恐ろしくクールだ。5人でポートレートを撮影するシーンから始まったかと思いきや写真の背後にいる男の首がカットされ、彼の現在を暗示させる。5人で赤い血やおそらく死体や凶器を隠し、そして納屋を焼く。最後に5人は警察車両に囲まれ、それでも輪になってお互いに微笑みかける。『ヴァージン・スーサイズ』を思わせる、密室で育まれたシスターフッド。誰も立ち入ることの出来ない世界。

 

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5人は誰かから逃げているのか、それとも誰かを探しているのか? ティザーで見せたホテルの部屋が並ぶ風景を思い出させる「Knock Knock (Who’s There?)」は恋の駆け引きを鬼ごっこに例えつつ、それ以上の何か不穏なものを感じさせる仕上がり。唸るエンジンの音に乗って固定概念をぶっ壊す「Bulldozer」、たった一度のキスで相手の人生を狂わせる「One Kiss」まで、彼女たちの背筋が凍るようなカリスマは更にその冷たさを増している。

 

ワルツのリズムと重厚なサウンドが印象的な「Nightmare」では嫌な考えや暗く沈み込む気持ちを悪夢に例えつつ、サビでは温かい朝日の光のような歌声が我々の行く道を照らしてくれる。朝焼けを思わせる爽やかなメロディが印象的なEDM調楽曲「Will I Ever See You Again?」では、愛しい存在への追憶を序盤は淡々と、徐々に感情を含んでいくボーカルのグラデーションを以て魅せる。

 

氷がグラスに触れるような音色から始まる「Iced Coffee」では愛しい相手への止め処無い気持ちをカフェイン中毒に擬える。「Wings」ではファンシーなHIPHOPビートの上で超絶技巧のコーラス・フェイク・アドリブの連打を披露しつつそれでいてエフォートレスな印象を受けるのは、彼女たちが歩んできたキャリアと磨いてきたスキルの賜物だろう。アルバム最後のトラックは「풍경화 (Scenery)」つまり「風景画」と名付けられ、共に過ごした時間や心象を絵の中の穏やかな光景に例えて描き出す。

 

名曲揃いの今作であるが、その中でも白眉なのは3曲目の「Underwater」だ。SMエンタ流のネオ・Trap・R&Bといった雰囲気の楽曲だが、まさに水のように透き通る歌声、そこに差し込むリバーブの効いたハイハットやキック、冷たいシンセの音色……。輪郭の溶けた水中の世界を音楽的に表現しつつ、深く包み込むような愛を歌い上げる。

 

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暖かく、熱く、そして激しい赤。艷やかで柔らかく、リュクスなヴェルヴェット。このアルバムを通して、今まで彼女たちの魅力は2つの相反する要素(=楽曲)を1つのグループが着こなしていることだと認識していたが(勿論今もそうなのだが)、RedとVelvetのニュアンスを使いこなし、1つに融合させることこそがRed Velvetの魅力なのだと強く感じた。「Red」と「Velvet」という2色の糸を使って5人が織り上げた極上のタペストリー――――。それが3rdアルバム'Chill Kill'であり、Red Velvetというグループそのものである。

 

 

 

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