火気厳禁のハングル畑でつかまえて

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半地下のオタクがK-POPを語るブログ

20240515/少女は二度死なない――tripleS「Girls Never Die」によせて

tripleSというグループを一言で説明するのは難しい。2022年にプロジェクトがスタートしたチョン・ビョンギによるグループで、K-POP史上最多のメンバー数を誇るガールズグループであり、NFTなどのテクノロジーを用いてファンと双方向のコミュニケーションを取りながら活動、各種音楽イベントやユースオリンピック開会式への出演……とその特徴や魅力は枚挙に暇がない。細かな背景情報は各々調べて頂くとして、ともかく今はメンバー24名全員が参加したアルバム『<ASSEMBLE24>』を一聴頂くのが手っ取り早く彼女たちを知る良いきっかけとなるのではないだろうか。

全10曲収録のこのミニアルバムは、今までリリースしてきた楽曲のテイストを踏襲しつつ現行シーンのトレンドを随所に取り入れ、かつ24名の多彩なボーカルを織り交ぜた強度のある楽曲群で構成されている。各楽曲の詳細なレビューは別の機会に譲るとして、まずはアルバムのリード曲「Girls Never Die」について考えてみたい。彼女たち(とそのPDチーム)はこの楽曲を通して何を表現しているのか? 完全体デビューというこの節目に際して、tripleSというグループについて改めて考えなければならない気がしている(勝手に)。

 

壁に立ち向かう少女たち

tripleSはメンバーが1人ずつ公開される特殊な活動形態を持つ。2022年5月1日に最初のメンバーユン・ソヨンが公開され、その後約1年3ヶ月後に24名が揃った。メンバーの公開と並行して随時DIMENTIONと呼ばれる限定ユニットでの楽曲リリースも行い、2022年9月25日に最初のDIMENTIONであるAcid Angle from Asiaが発足。今回の2024DIMENTIONを含めこれまでで9組のユニットが楽曲をリリースしている。

Acid Angel from Asiaの「Generation」では、寄宿学校とストリートという2つの背景を対比させ、息が詰まるような規則だらけの世界とそこからの軽やかな逃避を描いた。2023年当時公開されていた10名のメンバーから成る2023DIMENTIONによる「Rising」では、夢を追いかける彼女たちを嘲笑するような他者の姿が描かれる。それでも彼女たちは歩みを止めない。それどころか、資本主義すらも手玉に取って自己実現/自己肯定してみせる(LOVElution「Girls’ Captalism」)。彼女たちはその視覚的な諸要素や楽曲のジャンルに依らず、夢を追いかける姿と共に現実世界の抑圧に対する反抗的、批評的なメッセージも表明してきた。

 

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「Girls Never Die」では、そうした抵抗の姿勢が最も切実な形で表現されている。

 

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楽曲自体はファンク調のベースラインを軸に構成されているもののBPMはやや低め、一歩ずつ歩みを進めていくようなリズム感のトラックとメンバーの素朴かつ力強いボーカルの組み合わせに今までのアルバムリード曲とは違ったシリアスな印象を受けた。

MVの映像表現に目を移そう。空から落ちる小鳥たち、荒野に掘られた穴、廃墟と化したオフィスビル、轢かれそうになるハヨン、オフィーリアのように水に沈むユヨン、ビルから飛び立つ片翼のソヨンとジヨン―― 死の匂いを感じさせる演出は、都会のヒリついた空気と深い不安を表す。地面が不安定なのは踏み出す脚が震えているからだろうか。自分が押し潰されていなくなってしまいそうな夜、未知の世界に向かって決死の覚悟で飛び立つ。消え入る声で、こう呟きながら。

 

끝까지 가볼래 포기는 안 할래 난

果てまで行くんだ 私は諦めたりしない

 

(tripleS - Girls Never Die、筆者拙訳)

 

夢に向かっていく彼女たちは、自分の全存在を賭けて闘う。何度倒され、自分の弱さに打ちひしがれてもなお、立ち上がる。

 

다시 해볼까

もう一度、やってみようか

 

(tripleS - Girls Never Die、筆者拙訳)

 

この曲を、MVを再生するたびに彼女たちのメッセージは蘇る。決して死なない。

 

連鎖する夢と可能性

tripleSは一貫して、夢を追いかけながら、楽しみ、抗い、葛藤する姿を我々に見せてきた。先にも取り上げた「Rising」のMVでは、夢に向かって地道に努力する彼女たちとステージ上でパフォーマンスする彼女たちの姿を鏡合わせのように映し出し、連鎖する少女たちの”夢”―― それはアイドルというメディアを通して結ばれるシスターフッドと言ってもいい―― を見事に描いている。

 

Just 꿈에서 본 내 모습 Dejavu

夢で見た私の姿がデジャヴする

 

고통이 지나고 달라진 Make It Move

困難を乗り越えて成長した

 

비바람 좀 더 세게 더 강해질 내게 바래

雨風が強くなるほどに更に強くなる私達

 

날 믿어 Just Let Me

信じてついてきて

 

And I Never Let Dream Go

絶対に夢を諦めないから

 

(tripleS - Rising、筆者拙訳)

 

tripleSというグループの存在は、アイドルとそのファンが二項対立的な構造を為しているのではなく、むしろ地続きにあることを思い出させてくれる。彼女たちもまた先輩アイドルを見て夢を持ち、そして彼女たちが次の夢を育む。tripleSはその特殊な活動形態から、「tripleSを見てtripleSに憧れ、tripleSのメンバーになる」といった現象が起きうる稀有なK-POPグループでもある。最終的に集まった24名のメンバー達は、年齢も生まれた国も練習生期間もバラバラだ。しかしそれでも共通の夢を持ち、1つのグループとなって活動している。それを望み努力することで、誰もがアイドルになれるということをある種のラディカルさを以て表現したのが「可能性のアイドル(The idol of all possibilities)」tripleSなのである。

 

廻るリインカーネーション

「Rising」MVで彼女たちは、黒一色のスタイリングで都会の夜に飛び出していく。そして「Girls Never Die」のMVで表現されていたように、黒は喪に服す色でもある。闇に紛れるように黒を纏う少女たちが悼むのは、存在し得た自分の死なのかもしれない。

何にでもなれる私達は、何かになることで―― 何かを選ぶことで―― その可能性を失ってしまう。何かになることは、あり得たかもしれない自分を殺すことだ。しかし彼女たちは歌う、不死身なのだと。グループを、自らを拡張させてその可能性を保ったまま成長していく彼女たち。tripleSはあらゆる可能性の中を生きていく。生きながら死んでいく。しかしそれは、日々死にながらそれでも生きていくことの裏返しだ。tripleSはすべての生を、可能性を、夢を肯定する。我々を覆う壁や天井をぶち破る強さを、反骨精神と好奇心を、現実主義と自己肯定を、ダイヤモンドのような硬さを、雨風に煽られても折れない傘を、彼女たち24人の生を、可能性を、夢を―― その全てを以て。

 

날 따라와 달라진 날 하나가 되자

変わっていく私についてきて 一つになろう

 

너의 꿈이 내가 되고 우리 함께 꾸는 꿈

君の夢に私がなって そしてまた同じ夢を見る

 

(tripleS - Girls Never Die、筆者拙訳)

 

 

参考資料

 

 

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