火気厳禁のハングル畑でつかまえて

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半地下のオタクがK-POPを語るブログ

20230505/ようこそ、Red Velvetの世界へ――Red Velvet 'R to V' レポート

明るく情熱的な”Red”、艶やかで柔らかい”Velvet”。百花繚乱たるK-POPガールズグループシーンにおいて、Red Velvetはその独自の二面性で確固たる地位を築き上げてきた。Red Velvetは2014年のデビュー当初から『RBB』期までのミン・ヒジンによるアートワークやSM流の本格R&B楽曲を見る(聴く)にやや“玄人受け”感のあるグループではあるものの、最新ミニアルバム『Birthday』は初動売上約50万枚(女子グループの初動売上歴代9位)を記録。独自のカラーを保ちながらそのファンダムを拡大し続けている。2022年頃からCOVID-19に対する感染拡大防止策の緩和に伴ってK-POPグループの来日公演が徐々に増え始め、女性グループではaespaやBLACKPINK、PURPLEKISSやSTAYCなどが日本でもファンとの交流の場を設けている。Red Velvet ”R to V” ワールドツアーの日本公演もそうした流れの一部だと言えるだろう。今回はその公演2日目の様子をレポートしてみる。

 

会場は横浜ぴあアリーナMM。同時期デビューのTWICEやBLACKPINKがドーム公演を行っているのを踏まえ、いささか公演の規模が小さくないかと不満を持つファンも少なくないようだ。これまでのRed Velvetの日本でのプロモーション活動は2018年の日本オリジナル楽曲「#Cookie Jar」、その翌年の「SAPPY」のリリースから目立った動きはなく、2020年頭から行われた「La Rouge」ツアーもCOVID-18の影響で中断。2022年にようやくアルバム『Bloom』をリリースしたものの、内容は既存の日本オリジナル楽曲に新曲を加えたベストアルバム的なものだった。 推測の域を出ないが、同事務所のaespaのように段階的な集客や話題作りが出来ておらずドーム規模の公演に二の足を踏んでいる状況なのだろうか。(SMが元々会場抑えてあったのをワールドツアーに組み込んだ説もtwitterで見かけた) 

 

ミュージカルやディズニーランドのパレードを思わせるようなダンサーの群舞から公演の幕が上がる。オルゴールのような箱状のセットの中からピンクのドレス風衣装に身を包んだ4人が現れた瞬間、観客からは興奮と感嘆が綯い交ぜになった歓声が上がる。童話の世界のお姫様が目の前にいるような感覚。ネジを回す音からウェンディがこちらを振り返るまでの、悠久にも思える瞬間―――。花が咲くように淑やかに、「Feel My Rhythm」が始まった。ちなみに衣装はK-POPアイドル御用達のアトリエDénicheurによるものだ。

 

 
 
 
 
 
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この曲のキリングパートである「꽃가루를 날려(こっかるるなりょ)」は健康上の問題から不参加のジョイの代わりにアイリーンが担い、思わぬサプライズに会場の熱気も更に高まっていく。「G線上のアリア」をサンプリングしたメロディに808のハイハットが刻まれた”ポップ”というには攻めたサウンドの1曲だが、彼女たちの優美でしなやかなパフォーマンスと歌声によってその過剰さが祝祭感へと昇華されている。同ミニアルバム収録の「BAMBOLEO」のパフォーマンスではジョイがバックスクリーンに映像で登場し、観客からは驚きの声が上がる。スクリーンだけ見ていたらいないとは気付かないほどスムーズな音源と映像の同期に、演者だけでなくスタッフの熱量と技術を感じざるを得なかった。シティポップサウンドにRed Velvetのスウィートなボーカルの組み合わせによって会場は「月まで飛べそう」な恍惚感に包まれ、続く「LP」ではジャズやボサノヴァのリズムで観客を心地良く揺らす。

 

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「Happiness! Red Velvetです!」とお決まりのフレーズで挨拶すると、「残念なのですが」とリーダーのアイリーンからジョイの件に触れ、「体調も戻ってきているので心配しないでくださいね」とファンに呼びかけた。「(ジョイと)お互い頑張ろうとメッセージを送り合いました」とウェンディ、スルギも「今日ここにはいないですがモニターに出てきてくれるので大きな声でジョイの分まで応援してくれたら嬉しいです」とにこやかに語りかけるなど、コメントの節々にメンバー同士の深く強い関係性が垣間見えた。「今回のコンサートについて説明してくださいイェリさん?」とアイリーンに振られたイェリは照れくさそうに「Red Velvetの持つ美しさと強さをお見せします」と公演のテーマを紹介し、「Rは?」「Red!!」「Vは??」「Velvet!!!」と公演タイトルにかけたコールアンドレスポンスで会場を盛り上げた。

 

「Red Velvetだけがお見せ出来る世界へ行ってみましょうか?」というアイリーンのコメントからダンスブレイクを経てパステルカラーの衣装に早着替え。イェリ合流後初の活動曲「Ice Cream Cake」ではパワフルでキュートな一面を、「Oh Boy」ではセットの柵を使いアンニュイな表情を、「On A Ride」では恋のトキメキをHyperpop的な可愛くもドープなサウンドに乗せて表現する。そう、Red Velvetの持つ二面性は単に「楽曲の幅が広い」ということに留まらず、1曲の中に織り込まれた音とメッセージ、パフォーマンスの中にもその多種多様な魅力が同時に潜んでいる。ウェディングケーキ状にせり上がったセンターステージに腰掛け、メロウなバラード「Eyes Locked, Hands Locked」を歌い上げた。

 

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VTRを挟んでデニムと赤と黒のニットを合わせたクールなスタイリングで再登場。「Queendom」ではジョイのパートをウェンディが務め、元曲とはまた違った明るいエナジーを魅せた。友達への恋愛感情に気付いてしまった心の揺れ動きをグルーヴに落とし込んだ「Bing Bing」、「ラプソディ・イン・ブルー」をサンプリングしたお誕生日パーティーチューン「Birthday」と徐々に会場を盛り上げていき、高まった熱気そのままに彼女たちの代表曲「Red Flavor」をエネルギッシュに披露。赤い太陽のように熱く、温かく、我々に活力を与え、時に影を作り出す多様なRedサイドの曲目を締め括った。

 

再度ダンサーによる群舞が繰り広げられ、Velvetサイドのダークな雰囲気を予感させる。再びオルゴールの蓋が開いて流れたのはSMTOWN LIVE(配信)でも披露された人気曲「Pose」だった。ダンスフロアやランウェイでポーズを取る瞬間の高揚を歌ったこの曲をパフォーマンスするRed Velvetが生で見られるなんて……!!と興奮が止まらない。続けざまに繰り出されるTrapEDM楽曲「Beg for me」ではよりクイーン然としたオーラを強め、涼しい表情でクラクラするような重低音を鳴らしまくる。ここで今までのツアーのセットリストには入っていなかった日本語楽曲「WILDSIDE」を披露。「キミに守られ 呼吸するだけで puppet-muppetみたいに 惨めに踊らされ」「これまでの私じゃないの 見ていなさいWILDSIDE」と自身を覆う壁を打ち破る強さを見せつけた。筆者がぴあアリーナMMに初めて入ったということもあり、このパートでは会場自体の音響の良さを強く感じたのだが、その本懐はHIPHOPビートにクールな歌唱を載せた「ZOOM」で最大限に発揮されていたように思う。屋根が壊れんばかりの硬いキックに地鳴りのようなベース、証拠写真を”ZOOM”して浮気を責め立てるRed Velvetは背筋の凍るようなカリスマを放つ。打って変わって「エリーゼのために」をサンプリングしたミドルテンポバラード「BYE BYE」では未練を感じつつも相手との関係を断ち切る苦い気持ちを描き出す。ここでも単にガールクラッシュ的な強さだけでなく、自らの好きな格好をすること=自己実現の喜びや恋愛の中でも主体的であろうとする姿を堂々と表現する。こうした要素こそがRed Velvetが女性からの支持を集める要因だと言えるだろう。

 

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再度VTRを挟んで先程と同じく黒を基調としつつ、ビジューの沢山ついた華やかな衣装に着替えて登場。フューチャーベースにメンバーの歌唱力が際立つ「I Just」のイントロがかかりせり上がりでメンバーが登場すると、その衣装が似合い過ぎているメンバーの姿に観客は熱い反応を送った。特に『DEATH NOTE』のミサミサを彷彿とさせるツインテールに髪をセットしたアイリーンの破壊力は凄まじく、後のMCパートでウェンディに「物凄い声が聞こえるのでなんだろう?と思って横をみたらすぐ理由が分かりました」と言わせるほどの歓声、というか悲鳴と雄叫びのハイブリッド、声にならない声が会場中から上がっていた(勿論筆者もその内の一人である)。衣装はアンコール時のものだが、本人のinstagramに写真が上がっているので是非チェックして頂きたい。

 

 
 
 
 
 
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その勢いのまま可愛らしい歌詞やキャッチーなサビのリズムパターンにどことなく狂気を滲ませる「Peek-A-Boo」、K-POP史に残るTrapR&Bの名曲「Bad Boy」を容赦なく立て続けに披露。「Bad Boy」はイントロ部分に各メンバーのソロのダンスを追加した特別仕様になっており、この曲で描かれる妖しいファム・ファタール像がより濃く演出されていた。

後のMCで明かされたのだが、激かわツインテールはアイリーン本人の発案によるもの。現在も語り継がれる20180203音楽中心「Bad Boy」の再演というmaking historyな試みだったのだ。この曲のMVを見て本格的にK-POPにのめり込んだ火気厳禁は興奮のあまり鼻血が吹き出しそうになるのをなんとか抑えながら見ていた。

 

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MCでは「WILDSIDE」について「SMTOWN LIVEでもお見せしましたが単独コンサートでやるのは初めてなので披露出来てとても嬉しかったです」「皆さん見たかったですかー!?」と感慨を口にする場面も。

Velvet的な魅力をこれでもかと詰め込んだ名曲ラッシュの最後を締めくくるのは「Psycho」。2019年の「The ReVe Festival」シリーズ最終作であり、リリース直後に音楽番組の収録でウェンディが骨折する痛ましい事故が起きたことでも印象深い1曲だ。セクシーなフロアダンスのアレンジも加えられ、公演終盤をしっとりと彩る。この曲のクライマックスで入る「Hey, now we'll be ok」のリフレインは、ここにいないジョイに向けて、そして我々に向けて語りかけるように響く。この曲に織り込まれたメッセージは、アイドルと我々オタクの関係性についてにも当てはまる―――聴きながら、改めてそう強く感じた。

 

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「Psycho」のアウトロと共にゆっくりとオルゴールの蓋が閉じられた。MCでの「楽しい時間は早く過ぎますね、私達曲が終わったら帰らないといけません」「けど皆さん、分かってますよね?」とのイェリの呼びかけ通り、ファンの「Red!! Velvet!!」コールに応え4人が再登場。グッズTシャツをアレンジした衣装で「Color of love」を歌いながら登場したのだが、あまりの可愛さにこれまでより一層大きな歓声が上がり、何事かと驚くイェリの表情が印象的だった。(以下Instagram投稿4つめの動画がまさにその場面)

 

 
 
 
 
 
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MCでは曲名にかけて皆さんに色んな色の愛を届けたいです、とウェンディが彼女らしい笑顔で伝えると、メンバー全員で「私達がこれから一緒に歩んでいく未来を ”好きな色で 塗り替えよう~♪”」と一節歌ってファンへの気持ちを伝えた。幕間VTRのナレーションをウェンディが務めたという話題では、「セクシーにお願いします」とのメンバーからの振りに本人が応え「美味しくな~れ♡萌え萌えキュン♡のあれあるじゃないですか! あれみたいにセクシーさを注入します」と儀式(?)を行い、英語の台詞を流暢にそして妖艶に聴かせてファンを沸かせた。

最後に挨拶しましょう、とマイクをウェンディに回すもメイクのポイント紹介の流れに。ウェンディがえくぼにリップ、スルギが鼻筋のグリッターと髪を留めるピン、アイリーンが前髪と目元に貼ったマイメロディのステッカー、イェリがほくろとお下げをカメラに向けてアピール。5文字で言います、ファン悶絶。(以下スルギのInstagram投稿5つめの動画を参照)

 

 
 
 
 
 
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改めての最後の挨拶では日本のファンへの感謝を伝える。イェリは「上手ではないですが全部日本語で用意してみました、皆さん理解してくれますよね?」「ホールツアーの思い出をスタッフと話していて、今日こんなに大きなところで公演が出来るのが嬉しいです。ここまで支えてくれてありがとうございます」と全編日本語でコメントした。「また呼んでください!」「すぐ会えるよ〜!」とダブルアンコールを匂わせて再度退場。

 

ファンの期待に応えたダブルアンコールでは「もっと皆さんの近くまで行ってみましょうか!?」とトロッコに乗って会場を1周しながら日本語楽曲「Swimming Pool」を初披露。本国での楽曲と違ったJ-POP的な清涼感、そして”何故か中古車ディーラー・ガリバーのCMソングに起用された”というエピソードもあってファンの間で根強い人気を持つ1曲だ。3,4階席の方まで飛び跳ねながら手を振るメンバーの姿がナチュラルでなんとも愛おしい。続いて披露された「Aitai-tai」は日本オリジナル楽曲の中で火気厳禁が最も好きな曲と言っても過言ではなく我を忘れて踊り狂った。「Aitai-tai!!!」とイェリの力強いアドリブも相まって楽しさ、高揚感が増幅される。「メールより電話が好き 既読とか気が散る」ってパンチライン過ぎませんか? 続けて披露されるのはRed Velvet屈指のヘンテコキラーチューン「Zimzalabim」!! 勿論サビは全員で大合唱、狂喜乱舞としか表現しようのない盛り上がりを見せた。海外公演での様子がTwitterに上っているので是非見て欲しい。ぴあアリーナMMがナイトクラブと化していた。最後の最後を締め括るのは「You Better Know」。眩しい朝=新しい世界への1歩を踏み出すリスナーをそっと応援する美メロEDMで、3年振りの幸せな再会の幕を下ろした。

 

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公演全体を振り返って、最年少のイェリを3人が寄ってたかって可愛がる(こうとしか表現出来ない。笑)様子、ジョイのパートでアイリーンがモニターをじいっと見つめる様子も見られ、ジョイ不在であっても(あったからこそ?)彼女たちの強い関係性を感じた。MCでも度々メンバーが話していた通り、今度はジョイ含め5人で横浜に――いやもっと大きい会場に――舞い戻ってきて欲しい。マジで。

最後のMCでは、最年長リーダーであるアイリーンの口から「舞台に立っている時が一番楽しくて幸せだと改めて感じました」「そんな風に感じさせてくださってありがとうございます」という台詞が出た。IVEレイ、aespaウィンター、そしてジョイ――女性アイドルだけでも、現在活動を中断し治療/静養しているアイドルの名前がすぐ浮かんでくる。我々オタクが欲望すればするほど、アイドルは消耗してしまうのではないか。"推す"という行為そのものが推しを苦しめてはいないか。そういったことを考えざるを得ない状況が続いている。アイリーンのこの言葉を免罪符にせず、これからもK-POPシーンの動向を注視していこうと強く思った。

ワールドツアーということでアジア各国で既に公演が行われ、セットリストも分かっている状態であったが、幾つかの楽曲が日本語楽曲に差し替えられていたのもあり、日本公演は特に観客のボルテージが上がったまま最後まで突っ走る構成になっていたのも良かったと思う。

公演タイトルや幕間のVTRでも強調されていた「私ではないもう一人の私」。Red Velvetはパーソナリティの二面性(多面性)を肯定し、それらが混ざり合うことによって生まれる過剰や違和感をこそ楽しんでいた。柔と剛、伝統と革新、秩序と混沌、愛情と憎悪、正気と狂気、そしてRedとVelvet―――。Red Velvetはその矛盾した二面性によってこそ定義付けられる。彼女たちの歩んできたキャリアの長さと、そのコンセプトに裏打ちされた音楽的豊穣を余すことなく感じられる公演だった。

 

 

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