はじめに
2月22日、韓国の大手事務所JYPエンターテイメントから約3年ぶりに新人グループがデビューした。その名もNMIXX(エヌミックス)。そのNMIXXのデビュー曲「O.O」が賛否両論を呼んでいる。曰く「JYPっぽくない」「デビュー曲にしては変」「聴いてて疲れる」等々(否の方ばっかですいません)。筆者もこの曲はむしろ別の巨大事務所、SMエンタの楽曲に近い雰囲気を感じた。
しかし、賛否どちらの反応であれ、ここまで大きな反響を呼ぶということ自体が大手事務所の新人ということを踏まえて考えてもいささか過剰なように思う。このデビューシングル『AD MARE』について、リード曲「O.O」に用いられる手法、作曲陣のこれまでの仕事、ヴィジュアルイメージの分析によって、何故ここまで色んな反応を呼ぶのか、今までのJYPの女性グループとは何が違うのか、JYPはどのような意図をもってこの「O.O」をリリースしたのかを考察していく。
「O.O」は"変"なのか? - ビートスイッチについて
「O.O」の"変"さ
未聴の方は下のリンクから聴いて頂きたいのだが、「O.O」の最も印象的な要素として2回のビートスイッチがある。MV冒頭から1:23まではHIPHOP要素を取り入れたバイレファンキ、1:24~2:23ではポップロック、2:24~で最初のビートを発展させたものと、大別して2種のビートが組み合わせられた構成は、聴いた人に強烈な衝撃を与える。
「O.O」は何故この手法を取り入れたのだろうか? その前に、そもそもビートスイッチとは何かを見ていこう。
ビートスイッチとは
ビートスイッチ、とはそのまま「ビート」が「スイッチ」すること、曲の途中で伴奏(ビート)が切り替わることを指す。「転調」も同じような意味合いで使われることが多いが、厳密には曲の中で用いられる調(キー)が切り替わることを転調というため、BPM(曲のテンポ)や使われている楽器が急に切り替わることは転調とは言わない。
転調の例として、Zion.Tが2018年とスルギとコラボした楽曲「멋지게 인사하는 법(Hello Tutorial)」を挙げる。MV1:40~のスルギへマイクパスするタイミングで、調が切り替わっていることが分かるだろう。
「멋지게 인사하는 법(Hello Tutorial)」のリリースと同じ2018年、ビートスイッチの手法を用いた楽曲が一世を風靡した。Travis Scott「SICKO MODE ft. Drake」である。1分ほどの不穏なイントロとDrakeのラップから、よりテンポの早いのビートへ切り替わり、そしてまたMVの2:55~からのDrakeのバースではダウナーなビートへと切り替わる。アトランタのシーンで注目されていた彼は、この曲でその人気を確固たるものへと変えたと言っていいだろう。そんな曲に、ビートスイッチが用いられているのである。
同じくDrakeが参加したFutureの「Life Is Good」も、MVの1:43時点でビートが切り替わる。新進気鋭のスターTravisと大御所のDrakeとFutureがこのような楽曲をリリースし、HIPHOPシーンに影響を与えた。
ポップスの領域では、現在のK-POPシーンに多大な影響を与えているアーティストThe Weekendが「Alone Again」でビートスイッチの手法を取り入れている。上記HIPHOPの例とは違い、1:55~からゆっくりとシンセポップからTrapへと切り替わっている。
例に上げた「SICKO MODE」が2018年、「Life Is Good」「Alone Again」は少し間を開けて2020年にリリースされた。そしてそれから更に2年後の今、このような2種類(あるいはそれ以上)のビートを組み合わせた楽曲はUSのHIPHOPシーンにおいて珍しいものではなくなってきている。
(2018年以前のリリースにもビートスイッチする曲は勿論あります。ケンドリ「DNA.」とか。ここ最近で一般的になったのは「SICKO MODE」の影響だろうなという認識です)
K-POPにおけるビートスイッチの例
話をK-POPに戻そう。K-POP楽曲の特徴として様々なジャンルのメロディ、リズムが1曲の中でコラージュ的に用いられることが挙げられるが、その結果としてビートスイッチの手法を取り入れている楽曲がある。
いわゆるK-POP、の領域とは少し外れるが、まずは(G)I-DLEソヨンの楽曲「Is this bad b****** number? (Feat. 비비(BIBI), 이영지) |」を紹介したい。所謂Trapスタイルに電話のボタンを押すような音を組み合わせた遊び心のあるビートの上で客演の2人とソヨンがマイクをリレーしていく構成の楽曲だが、2:11~のソヨンのバースからは一気にハードなビートへ切り替わる。この曲から、K-HIPHOPの文脈においてもビートスイッチの手法が受容されていることが分かるだろう。
K-POPでの最も分かりやすい例は、aespaの「Next Level」だろう。HIPHOP調のループするビートに歌を乗せて進行するが、MVの2:05~から「beat drop」の掛け声と共にそれまでと異なるビートが挿入される。これはリメイク前の楽曲には無いギミックであり、メンバーのソウルフルな歌声とラップスキルを魅せるために既存のビートより少しだけゆっくりなビートのパートを入れたのだと思われる。
最も古い(?)K-POPのビートスイッチを含んだ楽曲は少女時代の「I GOT A BOY」だろう。HIPHOPのビートから始まり、次にロックへと変化、サビではなんとBPMも早くなり、EDM風のシンセサウンドが耳に突き刺さる。この曲のもたらす高揚感はまさにK-POPにしかない魅力だと思う。この曲のごちゃ混ぜ感は今こそ再評価されるべき……。
時代背景を鑑みるに「I GOT A BOY」はかなり実験的な例だと思うが、現在のK-POPにおいては「Next Level」のようにビートスイッチが用いられた曲であっても多くの人々に受け入れられている。こうした楽曲が生まれる背景に、欧米のトレンドを積極的に取り入れるK-POP自体の特性がある。またそうした楽曲が広く受け入れられる、ということに関しては、K-POPの国際的な広まりに加え、楽曲をパフォーマンス込みで受容させられるアイドルというプラットフォームによるところが大きいと考えられる。
では次に、「O.O」のビートスイッチについてより詳細に見ていくことにする。
「O.O」のビートスイッチ
ここでもう一度「O.O」を聴いて頂きたい。(出来ればサブスクで楽曲単体でも聴いて頂きたい)
これまでのビートスイッチを聴いた上で、あなたは「O.O」のビートスイッチに何を感じただろうか。
HIPHOPの楽曲に用いられるビートスイッチでは、BPMの上下に関わらず、1曲通してジャンルの変化は見られない(あくまでHIPHOPジャンルの中で留まっている)。The Weekendの例も、元々のシンセのメロディはある程度残しつつ、そこにテンポの違うハイハットが入ってくる構成だった。
K-POPにおけるビートスイッチの例として挙げた「Next Level」に関してはBPMの幅が狭く、そしてスイッチの前にセリフのパートが入る。この一瞬の静止が入ることによって、ビートスイッチを自然に実現している。「I GOT A BOY」のテンポは97~172BPMと物凄い幅があるが、これもサビの前のセリフによって違和感を打ち消している。
翻って「O.O」の場合は、MVでは演出として扉が倒れる音や足音が入るものの、リリースされた楽曲ではかなり唐突にスイッチングしている。BPMの幅もおおよそ30と、「Next Level」に比べ圧倒的に多い。この唐突さと振れ幅の大きさが、聴きづらさや違和感を感じさせる原因の一つになっているのではないだろうか。また、楽曲のジャンル、使われる音の種類も完全に変わっているために、巷間言われる「聞きにくさ」が生まれてしまっていることも指摘しておきたい。
では何のために、JYPエンタは"聞きにくい曲"を作らせたのだろうか。次の章では、カップリング曲「TANK」も含めた『AD MARE』の作曲陣の分析を行う。
作曲陣から見るNMIXX - SMっぽさとは何なのか
エンカミィィィーーーーーーーッッッ!!!!
「O.O」のカップリング曲である「占(TANK)」の冒頭には「INCOMIIIIIIING!!」というサンプルが入っている。少しでもK-POPに親しみのある方なら「あれ? なんか聞いたことあるな」と思うであろうこのサンプルは、実際にNCT 127「Sticker」やGOT the beat「Step Back」で使用されている。
何故違う曲に同じ声ネタが入っているのか? 答えは簡単、上記3曲に同じプロデューサーが関わっているからだ。
Dem Jointzとライアンジョン
このブログでfull8loomの特集をした時に触れたので詳しい説明は省くが、作曲家達が自身のビートにサインをするような意味合いでプロデューサータグというものを入れることがよくある。
この「INCOMIIIIIIING」のサンプルは「TANK」の作曲に参加しているDem Jointzのタグとのことだった。Dem JointzはDr.Dre, Kanye West(Ye), Kendrick Lamarなど錚々たるメンツにビートを提供するプロデューサーである。彼のキャリアについては以下の記事に詳しい。
K-POPの仕事では上記2曲以外にEXO「Ex'Act」、NCT 127「Cherry Bomb」、Red Velvet「RBB」など、SMエンターテイメントの楽曲にのみ参加している。
SMエンタは2010年前後から欧米・北欧圏のプロデューサーを起用し楽曲のクオリティの高さを誇っているが、近年はDem Jointzがその一端を担っている。
もう1人のプロデューサー、ライアン・ジョンはK-POP界の古株である。2010年から現在まで様々なアーティストに楽曲提供を行っているが、Shinee「Lucifer」、Super Junior「Shake It Up」、f(x)「Deja Vu」、NCT U「Baby Don't Stop」、SM TOWN (Taeyong, Jeno, Hendery, Yangyang, Giselle)「Zoo」など、SMエンタとの仕事が大半を占めている。
上記の曲がそれぞれDem Jointzとライアンジョンの単独で制作された訳では無いが、SMエンタで多くの仕事を手掛けた2名にオファーすることがどのような意味を持つのか、考えるまでもないだろう。
JYPの女性グループのデビュー曲
NMIXXをローンチしたJYPから過去デビューした女性グループの楽曲はどのようなものだったのだろうか。
2010年にデビューしたmiss Aのデビュー曲「Bad Girl, Good Girl」の作詞作曲は名物社長J.Y.Parkが手掛けている。ソウルやファンクから影響を受けた楽曲で、後のitzyにまで続く強い女性像をポップな形で提示した。2015年リリースのTWICEのデビュー曲「Like OOH-AHH(OOH-AHH하게)」はブラック・アイド・ピルスンによって制作され、明るく可愛らしいバブルガム・ポップながらメンバーの歌唱力も活かした楽曲になっている。GALACTIKAによって制作された2019年リリースのitzyのデビュー曲「DALLA DALLA」は、EDM~ハウスの要素を強く持ちながら、サビのボーカルラインは非常に爽やかでキャッチーな印象を与える。
「O.O」が「JYPらしくない」と言われる所以が分かっただろうか。時代背景の違いもあるが、JYPの女性アイドルのデビュー曲はかなりポップかつキャッチーな楽曲でデビューしている。楽曲、ヴィジュアル共に、JYPの女性アイドルのデビュー曲として「O.O」は異質である。カップリング曲の「TANK」に関しても、Dem Jointzとライアンジョンの起用することでSMエンタを意識していることは明らかだ。
あくまで「大衆性」のようなものを保ち続けてきたJYPが、NMIXX「O.O」で実験的なプロダクションを行ったのは何故なのだろうか。次の章では、MVの衣装を軸に、この問題に補助線を引いてみる。
アイドル、コンセプト、モード - NMIXXの衣装を例に
衣装
「O.O」のMVでは、ヴィジュアルイメージもかなり奇抜なものとなっている。特にMVの2番目パートで採用されている、スニーカーを解体して再構築したコルセット、メッセージが縫い付けられたドレスなど。
この出で立ちからも、JYPの意図を読み取ることが出来るのではないか? 楽曲に続いて、このスタイリングを分析していく。
"モード"とは何か
この衣装にはサンプリングソースが存在する。靴の衣装に関しては、BALENCIAGAが昨年発表したバッグ「SNEAKERHEAD」、cierra boyd氏の制作する衣装だろう。
K-POPのステージ衣装としても定番のBALENCIAGAであるが、2017年にスニーカー「Triple S」、2018年に「Track」を発表し、「ダッドスニーカー(お父さんが履いているようなダサめの運動靴)」のブームを巻き起こした。
ユーモラスかつ一種のグロテスクさも感じさせるcierra boyd氏の衣装は、こうしたスニーカーのブームから影響を受けたものであろう。日本への配送に対応しているかどうかは定かではないが、以下のサイトから購入できるようだ。
また、ドレスにスニーカーを合わせるスタイリングは、上記BALENCIAGAなどのスニーカーの流行を受けてメゾンブランドが提案してきたスタイルでもある。下の画像はCELINEの2021SS プレタポルテコレクションの中の1つ。
新人グループLUNARSOLARが、2021年リリースの「DADADA」のMVでこのようなスタイリングをいち早く取り入れていたことは指摘しておきたい。
派手なグラフィックの飾りがついたドレスに関しては、ヴィクター&ロルフが2019年の春夏にオートクチュールコレクションで発表したものからインスパイアされていると推測する。SNSのキャプションやお土産品のTシャツから着想を得たというドレスは、伝統的なデザインと現代の視覚情報文化の融合したシュールさを感じさせる。
奇抜、シュール、どこで着るのか分からない洋服たち――これらのファッションは、デザイナーによるアートピースのような意味合いが強い。服というメディアを使って何が表現できるのかといった試みの結果であり、我々の目にアヴァンギャルドとして映るのも無理はない。これらハイファッションにおける流行を、モード(仏:mode、流行)という。NMIXXのように、K-POPがモードを取り入れる意味とは何なのだろうか。
itzyの衝撃とNMIXXの新奇性 - スタイリングから見るK-POP
2019年にリリースされたitzyの「DALLA DALLA」のMVに対しても、「JYPっぽくない」という反応があった。その原因は彼女たちの衣装が、先輩グループTWICEのデビュー時とは異なり、所謂ハイブランドのアイテムをメインで着用していたことだ。今は少し落ち着いているが、2019年はラグスト――ラグジュアリー×ストリート――の流行が盛んであり、彼女たちはFENDI, CHANEL, Alexander Wang, BALENCIAGA, HERON PRESTONなど高級メゾンからデザイナーズブランドまで網羅したスタイリングで華々しく登場した。なぜハイブランドを着ることが「JYPっぽくない」という意見に繋がるのか? それは、それまでのK-POPシーンにおいて、自信満々、FlexでラグジュアリーなコンセプトといえばYGの専売特許であったからだ。
BIGBANG, 2NE1, BLACKPINK……このブログの読者であれば、YGエンターテイメントについて説明する必要は無いと思うが、この大手事務所所属のアーティストや楽曲の軸としてHIPHOPの要素がある。分かりやすく言うと、YG所属アーティストはハイファッションに身を包み、オラオラしたパフォーマンスをする(勿論例外もあるが)。
一転してitzyは、流行りでかつブランド物を身につけつつも、発信するメッセージやコンセプト自体は非常にフレッシュで明るく、YGのような"悪カッコイイ"雰囲気は極限まで薄められている。itzyが革新的だったのは、「ガールクラッシュだけど極めてクリーンでフレッシュ」という独自のポジションを創出したことだろう。BLACKPINKやCLCによってHIPHOPジャンルの楽曲、ガールクラッシュと呼ばれるコンセプトが受け入れられる土壌が作られた上で、敢えてそこから少しハズしたitzyのコンセプトが成立したのだ。
NMIXXにも同じことが言える。現在aespa、EVERGLOW、LOONAなどガールクラッシュとはまた少し違った、骨太な世界観を持つグループが人気を集めている。それを受けてNMIXXはMV1パート目と3パート目のようなヴィジュアルイメージを打ち出したのだと考えられる。実際、「TANK」の制作陣がSMエンタとよく仕事をしているし、MVを制作したのはLOONAのMVを手掛けるDigipediである。その上でJYPは、2パート目に最先端のモードを取り入れて更に目新しいイメージを作ろうとしている。
そう、既にK-POPシーンは「如何に目新しいものを提示出来るか」というレースと化している。ある事務所が革新的なイメージを打ち出せばすぐそれに追随する事務所が出てくるし、それが流行ればむしろ見飽きられて価値が低くなる。それはまるでファッションのように。つまるところ、K-POP自体が"モード"なのだ。「O.O」には、K-POPというレースのトップランナーたらんとするJYPの気迫と、そのレース自体の空虚さを感じる。カルチュラル・スタディーズの礎を築いた先人、ロラン・バルトのモードについての言葉を引用して、この章を終わりたいと思う。
モードはこうして、<みずからせっかく豪奢につくり上げた意味を裏切ることを唯一の目的とする意味体系>というぜいたくな逆説をたくらむのだ。
その他の問題点 - 衣装と楽曲の"盗用"
本題とは逸れるが、「O.O」は問題を抱えていることも指摘しておかねばならない。「盗用」の問題である。
まず先に述べたように、この楽曲のジャンルはブラジルのリオデジャネイロにルーツを持つバイレファンキである。しかし計11名の作曲陣の出身を確認すると、主に韓国、オランダ、イギリスであった。アフリカ大陸の北側に位置するカリブ諸島のシント・マールテン出身のプロデューサーは参加しているが、ブラジル出身の人物は1人もいないのである。国籍や出身が分からないプロデューサーもいたので現段階では言い切れないが、もしブラジルやその周辺国家に関連する人物が1人も入っていない場合、これは「文化の盗用(Cultural Appropriation)」にあたると思われる。
文化の盗用とは、ある文化圏の要素を他の文化圏の者が流用する行為である(Wikipediaより引用)。特に少数民族や、支配された歴史的な過去を持つ国家の文化を、被支配国家の資本が流用することが問題となる。今回は制作陣にブラジルや周辺国家出身の人物を配置せず、その文化に対して貢献していない形で流用していることが問題である。
また、衣装についても、リリース当初cierra boyd氏のクリエイションから明らかにインスパイアを受けているにも関わらず氏の名前はクレジットされていなかった。現在この問題は解決しているようだが、TWICE「MORE&MORE」、aespa「Black Mamba」などここ最近ヴィジュアル面での盗用の指摘が続いている。これはK-POP業界そのものが抱える問題と言えるだろう。(そもそもcierra boyd氏がシューズメーカーから許諾を得て制作、販売しているのかという問題もあるが……)
おわりに
ここまで、NMIXX「O.O」の楽曲と衣装を分析し、何故これほどまでに賛否両論を呼ぶのかを考察してきた。
欧米圏のポップミュージック、特にHIPHOPの中でビートスイッチの手法はそれほど珍しいものではなくなっていること、その影響でK-POPにおいても用いられるようになっていることから、「O.O」の最も特徴的なビートスイッチが何故使われるようになったのかを分析した。次にカップリング曲「TANK」の作曲陣の経歴から、「O.O」の「JYPっぽくなさ」の原因を考察してきた。続く章では「O.O」のMVにおける衣装のインスパイア元と、itzyのデビュー時のスタイリングを踏まえつつ、K-POPシーンが"モード"化していることを指摘した。
何故「O.O」は"変"なのか? それは「如何に目新しいものを提示出来るか」のレースであるK-POPのルールに則って新奇性を追求した結果、一般リスナーにとっては過激に、ラディカルになってしまったからだ。K-POPはモードである。よって、既存のコンセプトを提示しても意味が無い。しかしここに、筆者は別の希望を見出したい。今回のNMIXXのような実験的な楽曲、コンセプトによって、K-POPシーン自体が拡張し、より豊かで多様な楽曲がリリースされ得るという希望である。
モード、つまり流行は繰り返す。服と同じように、人気のないコンセプトは自然消滅するし、今人気があるコンセプトもいずれ廃れていく。また、ヴィンテージアイテムのように、昔リリースされた曲が今聴くとより"今"っぽく感じるということが当たり前のように起きうる。K-POPをより楽しみたいのであれば、まずは様々な曲を聴きMVを見る他無い。スタイリングも楽曲も、過去から続く1つの大きな流れの中で価値付けられているのだから。
勿論我々リスナーも、このK-POPという現象の中でモードを作る当事者である。リスナーの側から、良いモノは評価し、問題点は批判することで、より良いクリエイションへ導いていけるはずだと私は信じている。NMIXXは、そしてK-POPは今後どうなっていくのだろうか―――その答えは、我々リスナーが作っていくのかもしれない。
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参考資料
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2018年10月のK-POPは10年に一度のアタリ月であったことを後世に伝えたい(コード進行・楽曲分析と10月のシングルチャートTOP10一覧つき) - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店
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親にバレないようにN.W.A.のテープを隠した幼少期からドクター・ドレーに信頼されるプロデューサーに。Dem Jointz(デム・ジョインツ)というプロデューサーの人生。 | HIP HOP DNA
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Met Gala 2019: Hailee Steinfeld makes a statement in a tulle gown | Daily Mail Online
- 鷲田清一『モードの迷宮』1996年、筑摩書房。
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https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/2115/GKH019510.pdf
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aespa、デビュー曲「Black Mamba」MVに盗作疑惑が浮上も…SMが公式コメント“異議なしと確認” - Kstyle
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TWICE、新曲「MORE&MORE」MVのセットに盗作疑惑が浮上…JYPがコメント“原作者と円満な解決を要請” - Kstyle